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大乗仏教思想

 「仏教学」とは,思想史(釈尊が説いた教えが,歴史においてどのように解釈されていったのか)に学ぶことである.紀元前後に起こった大乗仏教思想の基本的概念とその代表的経典を議論する.

 大乗仏教の特徴は,貨幣経済など時代の変化・要請に対して民衆の教化をしない,自利行のみの小乗(阿羅漢)仏教を批判した点にある*1

(仏に向かって歩む方便)
 小乗仏教においての目標は阿羅漢*2であり,大乗仏教においては仏*3である.小乗仏教は出家者が阿羅漢になることを目指した結果を第一に求めた仏教である.それに対して大乗仏教は仏に向かって一歩ずつ近づく方便(歩み・プロセス)そのものを大切に考える仏教である.
(菩薩の思想)
 菩薩とは仏になるための方便を行じている者である.仏の概念が時間的・空間的な多仏思想に発展し,さまざまな利他行をおこなう高い境地に達した菩薩*4が経典の案内人として登場した.仏になる資格を持ちながら,この世にとどまり衆生を救済する*5.菩薩であることが重要な意味をもつのである.
(菩薩行 六波羅蜜
 仏教教団は出家主義をとったためサンガの生活は布施*6によりなりたっていた.大乗仏教になると六波羅蜜の一項「布施波羅蜜」に取り入れられた.施しが真の布施になるためには「施す者の心が清浄であること」「なされる者の心が清浄であること」「施物が清浄であること」という三輪清浄(執着を離れた心)が説かれた.また,業のエネルギーを輪廻とは別の方向に向ける「廻向*7」が積極的に説かれた.
仏陀仏陀の身体とは)
 釈尊が説かれた自身の存在は,肉体としての存在(色身仏)と真理としての存在(法身仏)であり,崇拝の対象になるのは肉体を超越した永遠の真理である.色身仏である釈尊は入滅されたが法身仏である釈尊は時間と空間を超越して存在し続ける,大乗仏教仏陀観,真理仏の確立である.
 真理は永遠,普遍である.だとすると過去に真理を説いた仏陀が存在したに違いない「過去仏*8」の信仰と真理を説き続けるための「未来仏*9」の出現である.時間的仏陀が無限であれば次は空間的仏陀の無限,十方世界での無数の仏の存在である.東方の仏国土(浄土)には薬師如来浄瑠璃世界,阿閦仏の妙喜世界,西方の仏国土には阿弥陀如来の極楽浄土がある.
 薬師如来阿弥陀如来と釈迦仏との違いは,釈迦仏はすでに入滅された仏であるのに対し,今でも他の仏国土である浄瑠璃世界や極楽浄土で説法を行っている(今現在説法)「現在仏」であるという仏陀観である.それが真理である「法身*10」,歴史的世界に現れた釈尊である「応身仏*11」,薬師如来阿弥陀如来などの理想仏である「報身仏*12」の三身説へと発展した.
 「般若経」は大乗仏教の先駆の経典である.六波羅蜜を廻向へと向かう菩薩行と定め,釈迦の教えである因果則,輪廻を生み出す業のエネルギーを消し涅槃(智慧の完成)を実現するための出家と修行から日常の善行により涅槃を実現するための「空」の思想が確立された.その後成立した代表的な大乗経典である「維摩経」は「空」の思想が説かれている.「法華経」は前半で小乗仏教大乗仏教もすべて釈尊の説かれた一仏乗に包摂される(悟りの可能性を授記する)とする.後半では,仏はすでに久遠の昔に成仏しており, 永遠の過去から永遠の未来にわたり衆生を救済し続けるとする.
 「浄土三部経」は,空間的仏陀に目を向け,人々の救済のため四十八の誓願を立て長い修行をした*13極楽浄土の教主である阿弥陀仏と極楽浄土への往生と修行を説いている.
 「華厳経*14」はこの全宇宙が毘盧遮那仏の顕現であると説き,毘盧遮那仏は宇宙に遍満する智慧の光とされ,それが悟りの本質であるとする*15
 「涅槃経」は釈尊が入滅の直前に説かれた教えとされる経典*16である.いっさいの衆生に仏性*17(仏になれる本性)がある*18としている.
 「勝鬘経」は大乗仏教の在家中心主義を示す*19経典である.

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*1:大乗vs小乗の構図は後の時代に作られたものか?

*2:仏になるという発想自体思いもよらない傲慢なものであり,仏と重なるのは,解脱を達成して涅槃の境地という点のみ.(初期仏典には「複数の仏」の表現が出てくる.「buddha」の意味は「目覚めた」であるので,最初は修行への道に「目覚めた」そして釈尊と一緒に修行をしていた者から,釈尊入滅後は「悟りを獲得した者」の意味に変わる.)

*3:実際には阿羅漢は仏「十号」の一つ.「仏になる=悟りを得る=解脱する」は,大乗も小乗も同じ目標であったであろう.

*4:観世音菩薩,文殊菩薩弥勒菩薩地蔵菩薩普賢菩薩など.

*5:仏になったら来世はないので菩薩が設定されたのであろう.

*6:布施には事物への執着を捨てる意味がある.

*7:自分の獲得した資糧を他者に回すこと.

*8:毘婆尸,尸棄,毘舎浮,拘留孫,拘那含牟尼,迦葉,釈迦(過去七仏)ただし大乗仏教以前にも過去仏は説かれている.

*9:弥勒菩薩

*10:無始無終,毘盧遮那仏大日如来

*11:有始有終.

*12:有始無終.

*13:法蔵菩薩

*14:もともとは別なる経典がまとめられたもの.核は「八法界品」.

*15:中国華厳宗的理解.

*16:実際には後期大乗経典.

*17:常楽我浄.

*18:一切衆生悉有仏性.

*19:如来蔵思想(仏性思想).