HANABI/ミスチル から10年,「SINGLES」で主人公は大人になった.
ミスチルの歌詞のお好きな方,こんにちは.
人間の欲のなかで最も強い激しい欲・執着を「渇愛」といいます.仏教のなかではもっとも苦しい煩悩であると捉えられています.そのひとつがこの煩悩(愛する人への思いを捨てること)でしょう.これら煩悩を克服することが衆生にとっての課題です.波風がたった娑婆世界に生きている人間はなにげない日常のなかでいったいなにをすればいいのでしょうか.
最近,劇場版コード・ブルーがヒットしたテレビドラマ「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」の主題歌「HANABI」は10年経った今も輝きを放ち続けるモンスターソングです.その歌詞は生きていくことの悲しみを仏教観で切々と歌い上げています.そしてこれも10年のときを経て,2018 年夏にリメイクドラマとして再度放送された人間の「都合」と「執着」により腐敗した日本企業と戦う『ハゲタカ』の主題歌「SINGLES」その言葉の奥にあるメタファーを勝手に読み解いてみました.
以前,HANABIに仏教観を説いているようなメタファーを感じたので書いています.
「サヨナラが迎えに来ることを,最初からわかっていたとしたって」「決して捕まえることの出来ない 花火のような光だとしたって もう一回×4 僕はこの手を伸ばしたい」
10年前,主人公は会者定離(かならず来る別れ)をわかっていても,愛する人との別れを惜しみ,未練と後悔の中で生きていた.
「めぐり逢えたことでこんなに 世界が美しく見えるなんて 想像さえもしていない」
たとえ花火の光のような一瞬の煌めき,刹那の感動を繰り返すだけだとしても会いたいと思っていた.
「僕は意外といろんなことを覚えていて 戻れないこと わかってたって どこかに面影を探してしまう」
10年の時を経た主人公はいまでも,戻れない幸せだったあの頃の記憶をどうしても忘れることができない.
「悲しいのは今だけ 何度もそう言い聞かせ いつもの同じ感じの日常を過ごしている」
忘れる努力をしてもそれは悲しい心を忘れたいと言い聞かせることがより執着を強めてしまうことになる.忘れようとする行為自体が思い出すことに縁起する.
「僕が僕であるため Oh I have to go」
だから,新しい道を進むこと転換が必要だ.
「ねぇ 君はまだあの虹を覚えてる?」
主人公(ミスチル)は「虹」に何を意味づけているのだろう.
“夕立の晴れた空にかかる虹は,やがてはかなく消えてしまいますけど,ひとの胸にかかった虹は,消えないようでございます.*1”
主人公にとってこれほどまでに人を愛し,これほどまでに愛にとらわれたことはなかったのであろう.
同じ虹は二度と見られない.あの美しいグラデーション,虹の色に境界を引けないように,この世の中の全ての事物は常に変化し,他から独立して存在しているものなどない.虹はまさに釈尊の縁起の法が説く移ろいゆく世界,無常無我のありさまそのものである.
「誰かの為に生きるって誇りを 僕に教えてくれたのは 君だけ」
「発菩提心*2」誰かのために生きたい.愛する人は主人公の意識下にいつしか観音菩薩(ブッダの報身・化身)となり,自利(自分のため)だけでなく利他(誰かのために努力すること)を即し菩薩行へ導く.
「守るべきものの数だけ 人は弱くなるんなら 今の僕はあの日より きっと強くなったろう」
煩悩(守るべきもの)の数だけ苦しみは増していく.渇愛や執着を手放すこと,とらわれの心を取り返すこと.主人公は執着する「思い」を「思い出」に変える.
「楽しいのは今だけ 自分にそう言い聞かせ 少し冷めた感じで生きる知恵もついたよ」
「愛別離苦」,愛が深ければ深いほど別れ離れの苦しみは増していく.どんなに愛を注いでも,その対象は無常である.だからやがては変化し過去に去ってしまう.愛は束の間の時,無常無我を自身に言い聞かせる,仏の智慧である.
「それぞれが思う幸せ 僕が僕であるため」
「自己を拠り所とせよ」,自分は自分の人生を自分として生きていく.自分自身に誇りを持ち,そしてこの世は無我であるということの智慧をつければ無常を受け止めることができる.釈尊が入滅される前に弟子に示された最後の教え「自灯明*3」「法灯明*4」とはそういう意味の言葉である*5.
主人公は,一切皆苦(この世で生きていくことの苦しみ)を受け入れようとしている.
だから最後にもう一度,
「臆病風に吹かれて 波風がたった世界を どれだけ愛することができるだろう?」
日々是好日,過去を追うな.未来を願うな.ただ今日なすべきことを熱心になせ.過去はすでに過ぎ去り,未来は未だ来ていない*6.またお願いします.ありがとうございました.