釈尊(誕:紀元前5世紀頃)の時代に形成されていた古代インド社会について
古代インド社会の特徴とバラモン教との関係
・カースト制度*1について
古代インドで生まれた独特の職業身分制度のことで,「ヴァルナ」「ジャーティ」と呼ばれている.バラモン教により形成された職業身分制度「ヴァルナ*2」は,大別すると4つの階級が存在し,上からバラモン(司祭者・聖職者),クシャトリヤ(王族・武士),ヴァイシャ(商人・農民),シュードラ(隷属民・農民)に分けられる *3.そして社会単位を形成したジャーティ*4は,時代の変遷とともにそれぞれの職業で細分化したものである*5.15世紀には約2,000種以上の職業による社会構造を形成していた.
始まりは,紀元前15世紀頃に宗教的な民族であるアーリアンが古代インドに移住(侵入は少なくとも数次に分かれていたと推定される*6)するときに,征服層が3つのヴァルナを作り,先住民であるドラヴィダ人を当初の下位のヴァルナとしたことがきっかけである(紀元前15〜10世紀頃500年間に徐々に編まれていったと考えられている).
・バラモン教との関係
アーリアンたちの宗教観がバラモン教である.遅くとも紀元前10世紀頃に成立した(後4世紀ヒンドゥー教の定着)と見なされているリグ・ヴェーダは最古の聖典であり,古代のインド思想はヴェーダ思想と非ヴェーダ思想に大別出来る.ヴェーダの権威を認める思想が,古代インドでの正当な思想であり,バラモン教の根幹である.バラモン教は,「梵我一如*7」を基本(最高)原理とし,インド社会の頂点に君臨していた.
一方で,貨幣経済の浸透により自由な風潮の下で*8,従前のヴェーダによるバラモン教を離れた思想家「沙門*9」が出現した.この中の一人が釈尊である.仏教はヴェーダの権威を認めないので,非バラモン教である.ジャーティとヴァルナによる職業身分制度に反撥する動きが現れたのである.その後,バラモン教に取り込まれた輪廻・業,バラモン教が目指す解脱といった思想*10は仏教にも大きな影響を及ぼした(仏教では,輪廻が教義の一部のように誤解されるが,古代インドから信じられ,社会常識化した輪廻を直接否定せず,方便(手段)として認め,これを苦と捉え,これから解脱することを教義とした.輪廻を否定的要素と見なした).
輪廻:ヒンドゥー経では輪廻を教義の根幹とし,信心により来世(次の輪廻)でカーストが上がると信仰されている.
業*11:行為のこと.輪廻観と結びつく.
解脱:束縛(輪廻・業)から離れる,脱出すること.
*1:16世紀にゴアを占領したポルトガル人が,インド社会に見られるそのような集団を,ヴァルナとジャーティの区別をすることなく,ポルトガル語で種族・家系や血統・純血を意味するカスタという語を用いて表し,それが後に英語のカーストとなった.したがって,カーストという表現では,ヴァルナとジャーティは区別されずに,その両者が混同されることになる(現代・インドフォーラム,2010).
*2:「色」を意味する.
*3:征服者アーリアンと服従者先住民族の身分制度,そのころはヴァイシャがアーリアンの平民,シュードラが隷属させら先住民族を意味していた.
*4:生まれ.
*5:立法書「マヌ法典」に織り込まれた(BC.2-AC.2編纂).
*6:BC.15-BC.13頃.
*7:ウパニシャッド(「師の近くに座す」という意味)に述べられている哲学.
*8:部族社会から市民社会へ:古代都市の成立により,アーリアンの生活は農村から都市へ政治や経済の中心が移動した.
*9:「努力する人」という意味.
*10:BC.800-BC.500頃.
*11:仏教の「業」について:「業」は行動なのか,知識なのか,心なのか,考え方なのか,生老病死とどのように関わっているのか⇒『岩波仏教辞典』(中村元〔ほか〕編 岩波書店)に「業と輪廻」「業の分類」「業と縁起」の3つの観点から簡潔な解説がある.